Images of ベラルーシ鉄道
多くの旅人にとって、ロシアの鉄道と言われて真っ先に思い浮かべるのは、言うまでもなくシベリア鉄道だろう。看板列車「ロシア号」は、ウラジオストク?モスクワ間、約9300キロの行程を6泊7日かけて走破する。しかし、何かと忙しい日本人にとって、これだけの時間を取って旅をするチャンスを作ることは、かなり難しい。
一方、ロシアは広大であるとともに、多くの国と陸続きでもあるので、そのうちのかなりの国々と鉄道で直接結ばれている。日本から別の国に行く際は、空路か海路しかないので、陸路で国境を超えることは、他の海外旅行と比べてもなかなか得難い、貴重な体験ではないかと思う。
特に欧州への鉄道は、かつて体制が違った、いわゆる「東西国境」を越えるため、車窓の変化も、またある意味、厳重な国境検査も楽しめる上、乗車時間は1泊2日、または2泊3日で全線乗車できる。このロシア?欧州間を結ぶ鉄道の魅力は、日本の旅好きの皆さんにも、もっと知ってもらっても良いのではないか。その関心から、私は2013年11月に、モスクワからベルリンまでの「モスクワ・ベルリン・パリ号」(第23列車)に体験乗車した。その旅行記は、本JICインフォメーション第179号(2014年4月10日)・第180号(2014年7月10日)に掲載しているので、関心ある方は手に取ってみてほしい。
■ロシア鉄道がモスクワ‐ベルリン間に新列車を運行
2016年12月11日から、ロシア鉄道は、モスクワ?ベルリン間で、新たな列車「ストリージィ(スイフト=アマツバメ)」号(第13/14列車)の運行を開始した。この列車に投入されるのは、スペイン製の軌道可変連接車両「タルゴ9」タイプ客車で、軌道の幅が異なる(ロシア・ベラルーシ=広軌1520mm・欧州=標準軌1435mm)区間を、台車交換の必要なく切り替えて走行できる、いわゆる「フリーゲージトレイン」だ。これまで、ベラルーシ・ブレストの専用施設で、1時間以上かけて行っていた台車交換の必要がなくなり、高速走行に適した連接構造(車両と車両の間に台車がある)も相まって、モスクワ?ベルリン間で西(ベルリン)行きで約4時間半、東(モスクワ)行きで約5時間半の所要時間の短縮が実現したという。
日本でも一部報道はされたものの、まだほとんど知られていないこの列車を体験し、未来の旅人達にその魅力を知ってもらいたい、との思いで、11月24日、一路アエロフロートでモスクワに飛んだ。
約10時間のフライト時間は、ボリュームある2回の機内食と、邦画・吹き替えの洋画数本と楽しんでいるうちにあっという間に過ぎ、モスクワ時間で17時、マイナス10度まで冷え込んだ、小雪がちらつくモスクワに降り立った。
シェレメチェヴォ空港Dターミナルビルから動く歩道で約15分、空港連絡列車「アエロエクスプレス」駅に到着。券売機はロシア語・英語・中国語に対応しており、カード利用可。運賃はスタンダード420ルーブル、ビジネスクラス1000ルーブル。チケットを取り、自動改札にバーコードをかざすとゲートが開く。ゲートの向こうにある、行き止まり式のホームに停車する列車は8両編成。改札口に最も近い(空港側)1号車がビジネスクラス。乗車時にボタンを押してドアを開ける。座席はスタンダード・ビジネス共に固定座席で、スタンダードは通路をはさんで片側2列+3列ずつ、ビジネスは2列ずつ。トイレも設置されている。車内は無料wifiが設置されているが、SNSを通じた登録が必要だ。ドリンクや軽食の車内販売も回ってくる。30分おきの運行で、所要時間は35分、ノンストップで、モスクワ中心から北西部に位置するベラルスキー駅に到着した。
明日の列車もこのベラルスキー駅から出発するので、この日の宿は、駅から徒歩3分の場所にある「グランド・ベラルスカヤ」を予約した。4階の405号室はシングルルームで、日本のビジネスホテルよりも心持ち広いくらいの大きさだが、ベラルスキー駅の広場を一望できる、眺めの良い部屋。このホテルはどの部屋もバスタブはないらしいが、それにこだわるのは日本人くらいだろう。個別空調や液晶テレビ、ポットや冷蔵庫、ドライヤーといった必要な備品はそろっており、wifiももちろん無料、贅沢に過ごそうと思わなければ、十分快適だ。
翌朝の「ストリージィ」号の出発時刻は午前11時19分。駅は目の前なので、安心してゆっくり朝食を取った。バイキング形式だが品数はそれなり。エコノミーなホテルなので欲は言えないが、ここ最近、ロシア国内のどのホテルでも、朝食の野菜類の品数が、数年前に比べて明らかに減った印象がある。やはり対ロシア経済制裁の影響だろうか。
10時前にホテルをチェックアウトし、目前の大通りをくぐる地下道を抜けるとすぐにベラルスキー駅に出る。駅正面の、屋根にキューポラの付いた入口は、昨日降り立ったアエロエクスプレス専用口で、その左手が長距離列車の入口になっている。反対の右手は近郊電車(エレクトリチカ)の入口だ。左手に向かい、奥の入口に入ると、まずセキュリティゲートがあり、手荷物をX線検査機に通す必要がある。この駅から出るのは国際列車だけではないが、すべての長距離列車利用客に対して手荷物検査を実施しているのは国情なので仕方ない。そこを抜けると、1階が長距離切符売り場と食品・飲料・土産物などを扱う複数の売店、ATMと、ホームへの出口があり、エスカレーターで上がった2階が待合室になっている。待合室にも複数の売店、軽食・コーヒースタンド、キッズコーナーまである。待合室にも列車の電光掲示板があり、出発便についてのアナウンスが絶え間なく放送されている。2階からホームを眺めると、既に、目指す「ストリージィ」号は3番ホームに入線している。再び1階に降りて、ホームに出ることにする。発車時間に関係なく、ホームに出ることはできるようだが、寒空のためか、発車30分前の乗車開始時刻になるまで、他の旅客は誰もホームには出てこなかった。