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白黒映画なのに豊かな色彩を感じさせる。名作『ピクニック』は、日常を見つめ直すいまこそ観たい一本。                                                                                                                                                                                                『フレンチ・カンカン』『草の上の昼食』などで知られるジャン・ルノワール監督の代表作のひとつ。                                                                                                                                                                                                                                                                                                緊急事態宣言も明け、新しい日常を取り戻しつつありますが、映画館はまだまだ厳しい状況が続いています。そんななか、日本の独立系配給会社が立ち上げたのが「Help! The 映画配給会社プロジェクト」。その一環として、オンライン映画館のアップリンク・クラウドから数々の名作や国際映画祭の受賞作、近年の話題作など充実のラインナップを配信する「配給会社別 見放題配信パック」がスタートしています。今回はこのなかから、クレストインターナショナル配給の『ピクニック』を紹介します。『ピクニック』は画家のピエール=オーギュスト・ルノワールの息子、ジャン・ルノワールが監督した中編。1936年に撮影されたプリントはドイツ軍に破棄されましたが、映画の保存、修復などを担うシネマテーク・フランセーズによってオリジナルネガが救出され、46年にパリで公開されるという道を辿りました。クレストインターナショナルからは2015年にデジタルリマスター版が配給されています。パリから田舎へ、ピクニックにやって来た一家。まばゆい太陽のもとで風に木々がざわめく気持ちのいい天気の日、一家はブランコを漕ぎ、草の上の昼食を楽しんで幸せな時間を過ごします。胸いっぱいに広がる多幸感の一方で官能の在り処にまだ気づいていない娘がサクランボの木のそばで口にするのは、「なんだか優しさがこみあげてきて、草や水や木にも愛を感じるの。かすかな快い欲望が湧いてくるの。何かが胸にこみあげてきて、泣きたいような気持ち」という言葉。父と未来の娘婿は釣りに出かけ、母と娘はそれぞれに地元の青年が漕ぐボートで、すーっと川面を滑るように進んでいきます。うぐいすの鳴き声、青年に抱かれて流れる涙。ぐんぐんと雲が動き出し、やがて川面に落ちる雨粒。『ピクニック』はひとりの娘が経験した若き日の幸福と別れ、そしてその先までをも、わずか40分の中に描き出しました。白黒映画ながら、草の匂いや美しい光など豊かな色彩を感じられ、80年以上の時を経ても日々の美しさは変わらないことを教えてくれます。ステイ・ホームによって日常を見つめ直すいまこそ、改めて観たい名作です。                                                                                                                                                                                            当時ジョルジュ・バタイユ夫人であったシルヴィア・バタイユがヒロインを演じています。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        助監督には若き日のジャック・ベッケルやルキノ・ヴィスコンティ、アンリ・カルティエ=ブレッソンが名を連ねています。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 『ピクニック』監督/ ジャン・ルノワール出演/シルビア・バタイユ、ジャーヌ・マルカンほか1936年 フランス映画 40分 クレストインターナショナル<見放題配信パック>にて配信中https://vimeo.com/ondemand/crest01                                                                                                  Facebookでシェア  Twitterでシェア  Pen Membershipに登録                                                                    ネット配信が劇場を救う!? 「仮設の映画館」で観る、ある医師を描いたドキュメンタリー『精神0』に注目。                                                                                                                                                                                                『精神0』は第70回ベルリン国際映画祭エキュメニカル審査員賞を受賞。Ⓒ2020 Laboratory X, Inc                                                                                                                                                                                                                                                                                                新型コロナウイルスによって多くの映画館が休館せざるを得ず、公開延期も相次いでいるいま、インターネット上に「仮設の映画館」をオープンする試みが行われています。このプロジェクトに賛同した全国各地の映画館の写真がホームページに並び、その写真をクリックすれば訪れたい劇場へ。その鑑賞料金はそれぞれの劇場と配給会社、製作者に分配される仕組みで、「状況が変わったらぜひ映画館へ」のアナウンスとともに、映画が配信されます。現在ここで配信されているのが、「被写体や題材に関するリサーチは行わない」「台本は書かない」など十戒を掲げた“観察映画”で知られるドキュメンタリー作家、想田和弘監督の最新作『精神0』。2008年の『精神』でカメラを向けた、岡山県にある外来の精神科診療所の山本昌知医師の引退を見つめた作品です。『精神』は被写体の顔にモザイクをかける手法はかえって偏見を助長するという監督の意向から、素顔での出演を許可した人のみが登場した作品でしたが、今回の主人公は山本先生。はじめに、山本先生を頼りにしていた患者たちが心細さを隠せない様子を映し出し、カメラは82歳の山本先生と妻の芳子さんの日常を“観察”していきます。ナレーションやテロップ、音楽がないのはいつも通り。ゼェゼェと少し苦しそうな山本先生の息遣いがそのまま生きているリズムのように聞こえ、記憶が徐々に失われている芳子さんの足取りはおぼつきません。ふたりでお墓参りに行き、段差のある墓地を歩くシーンでは転倒しないかと心配になり、画面越しに手を差し伸べてしまいそうになるほど。きっと監督はどんなにか手助けしたかったに違いないと、覚悟をもって観察するドキュメンタリー作家の凄みを感じました。映画のキャッチコピーに“夫婦の純愛物語”とあるように、もうひとりの主人公は妻の芳子さんです。しわのある手をこすりながら微笑んでいる芳子さんは、苦労も喜びも多くを語ることはありません。けれども楽しい時間を一緒にたくさん過ごしたという近所の友人が、愛おしそうに語る思い出話から伝わるのは、夫を支え続けた人生の断片。『精神』の頃の芳子さんの映像も挿入され、そこからは誰もが目を背けることのできない老いと、彼女の生き方が浮かび上がってきます。患者とともに歩いてきた医師が最も近い存在である妻にも穏やかに接し、手を取り合う。山本先生が“共生”の意味を問いかけてくるドキュメンタリーです。                                                                                                                                                                                            『選挙』『演劇』『牡蠣工場』『港町』などに続く、想田和弘監督の“観察映画”第9弾。Ⓒ2020 Laboratory X, Inc                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        「仮設の映画館」では『精神0』の他にも『タレンタイム 優しい歌』などの名作を配信中。Ⓒ2020 Laboratory X, Inc                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 『精神0』監督/想田和弘出演/山本昌知ほか2020年 日本・アメリカ映画 2時間8分 「仮設の映画館」にて公開中。www.seishin0.com                                                                                                  Facebookでシェア  Twitterでシェア  Pen Membershipに登録                                                                    豪華スタッフが集結! Netflixオリジナル映画『タイラー・レイク−命の奪還−』の壮絶なアクションに、言葉を失う。                                                                                                                                                                                                『アトミック・ブロンド』などに出演もしているスタントマン、サム・ハーグレイブの初監督作。                                                                                                                                                                                                                                                                                                Netflixオリジナル映画の新作『タイラー・レイク−命の奪還−』の配信がスタートしました。主演は『マイティ・ソー』のクリス・ヘムズワース、プロデューサーは『アベンジャーズ』シリーズのルッソ兄弟、そして監督はルッソ兄弟とタッグを組んできたスタントマン出身のサム・ハーグレイブと聞けば、期待が爆上がりしてしまうというもの。その期待をはるかに超えるアクションが詰め込まれていますので、ぜひ覚悟して観てください!クリスが演じるのは、裏社会のミッションを引き受けてきた傭兵のタイラー・レイク。ムンバイで誘拐された麻薬王のボスの息子、オヴィを救出する依頼を請け負い、バングラデシュのダッカ市街地に向かいます。少年の奪還には成功したものの、抗争相手であるバングラデシュの麻薬王に追い詰められて、命を狙われる状況に。タイラーは少年を守りながら、敵と戦うことになります。銃撃戦から肉弾戦まで多彩なアクションシーンが詰め込まれていて、最後まで手に汗握る瞬間の連続! 高い身体能力を誇る肉体派の俳優クリスと、スタントマン出身の監督だからこそ可能になった、魅せるアクションというよりも実践的な息の根を止めるアクションが続きます。とりわけ壮絶なのが、10分以上におよぶワンカットふうのアクションシーン。銃を手にしたままのカーアクションののちに住宅内部に侵入しての接近戦、屋上での建物から建物へのパルクール的なジャンプ、そしてベランダから敵と落下……! って、いやこれカメラマン無事ですか!? と言葉を失う臨場感に圧倒されてしまいました。朗らかなイメージの強いクリスが、どこか死に取り憑かれている、陰のある男を演じているところもグッとくるポイント。息子の死について後悔の念を抱いているタイラーが、しだいに少年と心の距離を詰め、弱さを見せていく展開が胸に迫ります。川とプール、水のイメージが、冒頭とエンディングを円のようにつなぐ構成にも余韻あり。生き延びてほしいと願いたくなる、愛さずにはいられない男の戦いを見届けてください。                                                                                                                                                                                            テヘラン出身でハリウッドでも活躍する女優、ゴルシフテ・ファラハニも出演。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        製作を担当しているルッソ兄弟の弟、ジョー・ルッソが脚本も手がけています。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 『タイラー・レイク -命の奪還-』監督/ サム・ハーグレイブ出演/クリス・ヘムズワース、ルドラクシュ・ジャイスワルほか2020年 アメリカ映画 1時間57分 Netflixにて独占配信中www.netflix.com/jp/title/80230399                                                                                                  Facebookでシェア  Twitterでシェア  Pen Membershipに登録                                                                    良作の宝庫、アップリンクのオンライン映画館で観る54歳差のふたりの旅『顔たち、ところどころ』はドキュメンタリーの傑作です。                                                                                                                                                                                                カンヌ国際映画祭ルイユ・ドール(最優秀ドキュメンタリー賞)を受賞した作品。©Agnès Varda-JR-Ciné-Tamaris, Social Animals 2016.                                                                                                                                                                                                                                                                                                ”Stay Home”を充実させてくれる動画配信サービスはNetflixやAmazonプライムだけにあらず! 外出自粛要請によって厳しい状況が続いている映画館ですが、足を運ばなくても楽しめる取り組みが始まっています。そのひとつが、オンライン映画館「アップリンク・クラウド」。アップリンクが配給する映画60本を購入から3カ月間、2,980円で楽しめるというキャンペーンが2020年3月28日から始まりました。ホドロフスキー、ロウ・イエ、グザヴィエ・ドランを筆頭に作家性の強い監督の作品が揃い、良質なドキュメンタリーも充実。そのなかでも今回は、昨年90歳でこの世を去ったフランスの名匠、アニエス・ヴァルダ監督の『顔たち、ところどころ』を紹介したいと思います。フランスの田舎を旅するこのドキュメンタリーでヴァルダが相棒に選んだのは、54歳年下のJR。紛争地帯など世界各地に住む人々の大きなポートレートを街に貼り出すプロジェクトで知られる、若き写真家でありアーティストです。ふたりが向かうのは一見、のどかにも感じられる、市井の人たちが働き、生活する場所。炭鉱労働者の村に暮らす女性、港湾労働者の妻たちのもとなどを訪ね、そこでいくつもの“顔たち”と出合っていくのです。ヴァルダとJRが“顔たち”と向き合い、なにかを発見して心を動かされ、大きな写真を貼り出すことで、それぞれの場所で生きている人々へのリスペクトを表していく。出合いが化学反応を起こし、血が通った唯一無二のアートが完成する感動的な瞬間が、いくつも切り取られています。ゴダールの『はなればなれに』のごとく、ルーヴル美術館を訪れるチャーミングなシーンも。素晴らしい監督であり聞き手であるヴァルダは旅の最後に、とある友人のもとに向かいます。けれども会うことは叶わず、湖畔で風に吹かれるふたり。ヴァルダの目はすでに見えづらくなっていますが、ずっと外さなかったサングラスをついに取ってヴァルダを慰めるJRに、「人柄は見えるわ」とひと言。ヴァルダの人柄こそがよく見える、心に染み入る名場面です。他者への想像力と分かち合いの精神を感じさせる、優しさがあふれるドキュメンタリーの傑作といえるでしょう。                                                                                                                                                                                            ルーヴル美術館ではしゃぐふたり。思わず笑みがこぼれる。©Agnès Varda-JR-Ciné-Tamaris, Social Animals 2016.                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        JRは「Inside Out(インサイド・アウト)」プロジェクトで知られるアーティスト。©Agnès Varda-JR-Ciné-Tamaris, Social Animals 2016.                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 『顔たち、ところどころ』監督/アニエス・ヴァルダ、JR出演/テアニエス・ヴァルダ、JRほか2017年 フランス映画 1時間29分 アップリンク・クラウドにて配信中www.uplink.co.jp/cloud                                                                                                  Facebookでシェア  Twitterでシェア  Pen Membershipに登録                                                                    テイラー・スウィフトの葛藤を描いた『ミス・アメリカーナ』は、ファンじゃない人にこそ観てほしい良作ドキュメンタリー                                                                                                                                                                                                アルバム『Lover』の製作風景などテイラーの豊かな才能を垣間見られる場面も存分に。監督は日本人僧侶に密着した『いのちの深呼吸』なども手がけているラナ・ウィルソンです。                                                                                                                                                                                                                                                                                                ネットフリックスは、映画やドラマはもちろん、良質なオリジナルのドキュメンタリーの宝庫。メジャーなアーティストのドキュメンタリーがラインナップされているなかでも、テイラー・スウィフトの『ミス・アメリカーナ』はファン以外の人たちにも感動と気づきを与えてくれる作品です。幼い頃から日記を綴り、まさに日記のようにその時々の思いを素直に音楽にしてきたテイラー(別れた恋人との思い出もすぐに歌詞にしてきたので、お相手及びファンにとってはハラハラものなわけですが…!)。周りの目を気にして、優等生な“グッド・ガール”であり続けようとしていたという彼女の独白から、このドキュメンタリーははじまります。この作品は優等生であろうとした女の子が世間に叩かれ、自信を喪失し、やがてありのままの自分の価値を見出すまでの特別だけれど普遍的な戦いの記録といえるかもしれません。音楽と出合った幼い頃の映像やステージでのパフォーマンス、メロディと歌詞があふれ出てくる楽曲作りの過程は、選ばれしスターの光の部分。それだけにとどまらずこの作品では、摂食障害やゴシップ、カニエ・ウエストとの確執に悩まされた過去、元ラジオDJを相手にしたセクハラ裁判の行方など、影の部分まで赤裸々なインタビューとともに語られています。なかでも彼女の切実な願いと勇気が痛いほど伝わってくるのは、周囲の反対にあいながらも政治的な発言をしようと覚悟する場面。カントリー歌手としてずっと中立であろうとしていたテイラーが、女性や同性愛者の権利を守る気のない故郷のテネシー州の現状を憂いて、涙ながらに民主党支持を訴えたいと語る場面です。母親のガンをきっかけに、自分の人生のプライオリティに気づいたと語るテイラー。ひとりの人として、アーティストとしての成長を見つめた作品であり、人を敬うために学び続け「ピンクの服を着て政治の話をしたい」とインフルエンサーとして立ち上がった、聡明でたくましい女性の生き方を切り取ったドキュメンタリーに仕上がっています。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             『ミス・アメリカーナ』監督/ラナ・ウィルソン出演/テイラー・スウィフトほか2020年 アメリカ映画 1時間25分 Netflixにて独占配信中www.netflix.com/jp/title/81028336?source=35                                                                                                  Facebookでシェア  Twitterでシェア  Pen Membershipに登録                                                                                Back Number                                                                                                                キアヌ・リーヴスも登場! こんな時こそネットフリックスオリジナル映画『いつかはマイ・ベイビー』で大笑い。                                                                                                                                    炸裂する三池ワールド! 歌舞伎町を舞台にラブ、バイオレンス、アクション、コメディのすべてが詰まった『初恋』に痺れる。                                                                                                                                    いま注目の国・ジョージアから届いた、男たちの青春映画『ダンサー そして私たちは踊った』                                                                                                                                    ダニエル・クレイグの“とぼけぶり”が見逃せない、アガサ・クリスティに捧げる王道の謎解き映画。                                                                                            Go To Index過去記事一覧へ                                                                あの名曲「卒業」にも影響が!? 尾崎豊のクリエイションを支えた8冊の愛読書。                                                        【閲覧注意】リアル『シャイニング』!?  ホテルの廊下に、双子姉妹の「幽霊」が出現【動画あり】                                  var cX = window.cX = window.cX || {}; cX.callQueue = cX.callQueue || [];      cX.CCE = cX.CCE || {}; cX.CCE.callQueue = cX.CCE.callQueue || [];      cX.CCE.callQueue.push(['run',{        widgetId: 'b4564fcdbf99473a5ad359b213743e877af99e80',        targetElementId: 'cx_b4564fcdbf99473a5ad359b213743e877af99e80'      }]);        Topics                    映画のツボ        テイラー・スウィフトの葛藤を描いた『ミス・アメリカーナ...

白黒映画なのに豊かな色彩を感じさせる。名作『ピクニック』は、日常を見つめ直すいまこそ観たい一本。 『フレンチ・カンカン』『草の上の昼食』などで知られるジャン・ルノワール監督の代表作のひとつ。 緊急事態宣言も明け、新しい日常を取り戻しつつありますが、映画館はまだまだ厳しい状況が続いています。そんななか、日本の独立系配給会社が立ち上げたのが「Help! The 映画配給会社プロジェクト」。その一環として、オンライン映画館のアップリンク・クラウドから数々の名作や国際映画祭の受賞作、近年の話題作など充実のラインナップを配信する「配給会社別 見放題配信パック」がスタートしています。今回はこのなかから、クレストインターナショナル配給の『ピクニック』を紹介します。『ピクニック』は画家のピエール=オーギュスト・ルノワールの息子、ジャン・ルノワールが監督した中編。1936年に撮影されたプリントはドイツ軍に破棄されましたが、映画の保存、修復などを担うシネマテーク・フランセーズによってオリジナルネガが救出され、46年にパリで公開されるという道を辿りました。クレストインターナショナルからは2015年にデジタルリマスター版が配給されています。パリから田舎へ、ピクニックにやって来た一家。まばゆい太陽のもとで風に木々がざわめく気持ちのいい天気の日、一家はブランコを漕ぎ、草の上の昼食を楽しんで幸せな時間を過ごします。胸いっぱいに広がる多幸感の一方で官能の在り処にまだ気づいていない娘がサクランボの木のそばで口にするのは、「なんだか優しさがこみあげてきて、草や水や木にも愛を感じるの。かすかな快い欲望が湧いてくるの。何かが胸にこみあげてきて、泣きたいような気持ち」という言葉。父と未来の娘婿は釣りに出かけ、母と娘はそれぞれに地元の青年が漕ぐボートで、すーっと川面を滑るように進んでいきます。うぐいすの鳴き声、青年に抱かれて流れる涙。ぐんぐんと雲が動き出し、やがて川面に落ちる雨粒。『ピクニック』はひとりの娘が経験した若き日の幸福と別れ、そしてその先までをも、わずか40分の中に描き出しました。白黒映画ながら、草の匂いや美しい光など豊かな色彩を感じられ、80年以上の時を経ても日々の美しさは変わらないことを教えてくれます。ステイ・ホームによって日常を見つめ直すいまこそ、改めて観たい名作です。 当時ジョルジュ・バタイユ夫人であったシルヴィア・バタイユがヒロインを演じています。 助監督には若き日のジャック・ベッケルやルキノ・ヴィスコンティ、アンリ・カルティエ=ブレッソンが名を連ねています。 『ピクニック』監督/ ジャン・ルノワール出演/シルビア・バタイユ、ジャーヌ・マルカンほか1936年 フランス映画 40分 クレストインターナショナル<見放題配信パック>にて配信中https://vimeo.com/ondemand/crest01 Facebookでシェア Twitterでシェア Pen Membershipに登録 ネット配信が劇場を救う!? 「仮設の映画館」で観る、ある医師を描いたドキュメンタリー『精神0』に注目。 『精神0』は第70回ベルリン国際映画祭エキュメニカル審査員賞を受賞。Ⓒ2020 Laboratory X, Inc 新型コロナウイルスによって多くの映画館が休館せざるを得ず、公開延期も相次いでいるいま、インターネット上に「仮設の映画館」をオープンする試みが行われています。このプロジェクトに賛同した全国各地の映画館の写真がホームページに並び、その写真をクリックすれば訪れたい劇場へ。その鑑賞料金はそれぞれの劇場と配給会社、製作者に分配される仕組みで、「状況が変わったらぜひ映画館へ」のアナウンスとともに、映画が配信されます。現在ここで配信されているのが、「被写体や題材に関するリサーチは行わない」「台本は書かない」など十戒を掲げた“観察映画”で知られるドキュメンタリー作家、想田和弘監督の最新作『精神0』。2008年の『精神』でカメラを向けた、岡山県にある外来の精神科診療所の山本昌知医師の引退を見つめた作品です。『精神』は被写体の顔にモザイクをかける手法はかえって偏見を助長するという監督の意向から、素顔での出演を許可した人のみが登場した作品でしたが、今回の主人公は山本先生。はじめに、山本先生を頼りにしていた患者たちが心細さを隠せない様子を映し出し、カメラは82歳の山本先生と妻の芳子さんの日常を“観察”していきます。ナレーションやテロップ、音楽がないのはいつも通り。ゼェゼェと少し苦しそうな山本先生の息遣いがそのまま生きているリズムのように聞こえ、記憶が徐々に失われている芳子さんの足取りはおぼつきません。ふたりでお墓参りに行き、段差のある墓地を歩くシーンでは転倒しないかと心配になり、画面越しに手を差し伸べてしまいそうになるほど。きっと監督はどんなにか手助けしたかったに違いないと、覚悟をもって観察するドキュメンタリー作家の凄みを感じました。映画のキャッチコピーに“夫婦の純愛物語”とあるように、もうひとりの主人公は妻の芳子さんです。しわのある手をこすりながら微笑んでいる芳子さんは、苦労も喜びも多くを語ることはありません。けれども楽しい時間を一緒にたくさん過ごしたという近所の友人が、愛おしそうに語る思い出話から伝わるのは、夫を支え続けた人生の断片。『精神』の頃の芳子さんの映像も挿入され、そこからは誰もが目を背けることのできない老いと、彼女の生き方が浮かび上がってきます。患者とともに歩いてきた医師が最も近い存在である妻にも穏やかに接し、手を取り合う。山本先生が“共生”の意味を問いかけてくるドキュメンタリーです。 『選挙』『演劇』『牡蠣工場』『港町』などに続く、想田和弘監督の“観察映画”第9弾。Ⓒ2020 Laboratory X, Inc 「仮設の映画館」では『精神0』の他にも『タレンタイム 優しい歌』などの名作を配信中。Ⓒ2020 Laboratory X, Inc 『精神0』監督/想田和弘出演/山本昌知ほか2020年 日本・アメリカ映画 2時間8分 「仮設の映画館」にて公開中。www.seishin0.com Facebookでシェア Twitterでシェア Pen Membershipに登録 豪華スタッフが集結! Netflixオリジナル映画『タイラー・レイク−命の奪還−』の壮絶なアクションに、言葉を失う。 『アトミック・ブロンド』などに出演もしているスタントマン、サム・ハーグレイブの初監督作。 Netflixオリジナル映画の新作『タイラー・レイク−命の奪還−』の配信がスタートしました。主演は『マイティ・ソー』のクリス・ヘムズワース、プロデューサーは『アベンジャーズ』シリーズのルッソ兄弟、そして監督はルッソ兄弟とタッグを組んできたスタントマン出身のサム・ハーグレイブと聞けば、期待が爆上がりしてしまうというもの。その期待をはるかに超えるアクションが詰め込まれていますので、ぜひ覚悟して観てください!クリスが演じるのは、裏社会のミッションを引き受けてきた傭兵のタイラー・レイク。ムンバイで誘拐された麻薬王のボスの息子、オヴィを救出する依頼を請け負い、バングラデシュのダッカ市街地に向かいます。少年の奪還には成功したものの、抗争相手であるバングラデシュの麻薬王に追い詰められて、命を狙われる状況に。タイラーは少年を守りながら、敵と戦うことになります。銃撃戦から肉弾戦まで多彩なアクションシーンが詰め込まれていて、最後まで手に汗握る瞬間の連続! 高い身体能力を誇る肉体派の俳優クリスと、スタントマン出身の監督だからこそ可能になった、魅せるアクションというよりも実践的な息の根を止めるアクションが続きます。とりわけ壮絶なのが、10分以上におよぶワンカットふうのアクションシーン。銃を手にしたままのカーアクションののちに住宅内部に侵入しての接近戦、屋上での建物から建物へのパルクール的なジャンプ、そしてベランダから敵と落下……! って、いやこれカメラマン無事ですか!? と言葉を失う臨場感に圧倒されてしまいました。朗らかなイメージの強いクリスが、どこか死に取り憑かれている、陰のある男を演じているところもグッとくるポイント。息子の死について後悔の念を抱いているタイラーが、しだいに少年と心の距離を詰め、弱さを見せていく展開が胸に迫ります。川とプール、水のイメージが、冒頭とエンディングを円のようにつなぐ構成にも余韻あり。生き延びてほしいと願いたくなる、愛さずにはいられない男の戦いを見届けてください。 テヘラン出身でハリウッドでも活躍する女優、ゴルシフテ・ファラハニも出演。 製作を担当しているルッソ兄弟の弟、ジョー・ルッソが脚本も手がけています。 『タイラー・レイク -命の奪還-』監督/ サム・ハーグレイブ出演/クリス・ヘムズワース、ルドラクシュ・ジャイスワルほか2020年 アメリカ映画 1時間57分 Netflixにて独占配信中www.netflix.com/jp/title/80230399 Facebookでシェア Twitterでシェア Pen Membershipに登録 良作の宝庫、アップリンクのオンライン映画館で観る54歳差のふたりの旅『顔たち、ところどころ』はドキュメンタリーの傑作です。 カンヌ国際映画祭ルイユ・ドール(最優秀ドキュメンタリー賞)を受賞した作品。©Agnès Varda-JR-Ciné-Tamaris, Social Animals 2016. ”Stay Home”を充実させてくれる動画配信サービスはNetflixやAmazonプライムだけにあらず! 外出自粛要請によって厳しい状況が続いている映画館ですが、足を運ばなくても楽しめる取り組みが始まっています。そのひとつが、オンライン映画館「アップリンク・クラウド」。アップリンクが配給する映画60本を購入から3カ月間、2,980円で楽しめるというキャンペーンが2020年3月28日から始まりました。ホドロフスキー、ロウ・イエ、グザヴィエ・ドランを筆頭に作家性の強い監督の作品が揃い、良質なドキュメンタリーも充実。そのなかでも今回は、昨年90歳でこの世を去ったフランスの名匠、アニエス・ヴァルダ監督の『顔たち、ところどころ』を紹介したいと思います。フランスの田舎を旅するこのドキュメンタリーでヴァルダが相棒に選んだのは、54歳年下のJR。紛争地帯など世界各地に住む人々の大きなポートレートを街に貼り出すプロジェクトで知られる、若き写真家でありアーティストです。ふたりが向かうのは一見、のどかにも感じられる、市井の人たちが働き、生活する場所。炭鉱労働者の村に暮らす女性、港湾労働者の妻たちのもとなどを訪ね、そこでいくつもの“顔たち”と出合っていくのです。ヴァルダとJRが“顔たち”と向き合い、なにかを発見して心を動かされ、大きな写真を貼り出すことで、それぞれの場所で生きている人々へのリスペクトを表していく。出合いが化学反応を起こし、血が通った唯一無二のアートが完成する感動的な瞬間が、いくつも切り取られています。ゴダールの『はなればなれに』のごとく、ルーヴル美術館を訪れるチャーミングなシーンも。素晴らしい監督であり聞き手であるヴァルダは旅の最後に、とある友人のもとに向かいます。けれども会うことは叶わず、湖畔で風に吹かれるふたり。ヴァルダの目はすでに見えづらくなっていますが、ずっと外さなかったサングラスをついに取ってヴァルダを慰めるJRに、「人柄は見えるわ」とひと言。ヴァルダの人柄こそがよく見える、心に染み入る名場面です。他者への想像力と分かち合いの精神を感じさせる、優しさがあふれるドキュメンタリーの傑作といえるでしょう。 ルーヴル美術館ではしゃぐふたり。思わず笑みがこぼれる。©Agnès Varda-JR-Ciné-Tamaris, Social Animals 2016. JRは「Inside Out(インサイド・アウト)」プロジェクトで知られるアーティスト。©Agnès Varda-JR-Ciné-Tamaris, Social Animals 2016. 『顔たち、ところどころ』監督/アニエス・ヴァルダ、JR出演/テアニエス・ヴァルダ、JRほか2017年 フランス映画 1時間29分 アップリンク・クラウドにて配信中www.uplink.co.jp/cloud Facebookでシェア Twitterでシェア Pen Membershipに登録 テイラー・スウィフトの葛藤を描いた『ミス・アメリカーナ』は、ファンじゃない人にこそ観てほしい良作ドキュメンタリー アルバム『Lover』の製作風景などテイラーの豊かな才能を垣間見られる場面も存分に。監督は日本人僧侶に密着した『いのちの深呼吸』なども手がけているラナ・ウィルソンです。 ネットフリックスは、映画やドラマはもちろん、良質なオリジナルのドキュメンタリーの宝庫。メジャーなアーティストのドキュメンタリーがラインナップされているなかでも、テイラー・スウィフトの『ミス・アメリカーナ』はファン以外の人たちにも感動と気づきを与えてくれる作品です。幼い頃から日記を綴り、まさに日記のようにその時々の思いを素直に音楽にしてきたテイラー(別れた恋人との思い出もすぐに歌詞にしてきたので、お相手及びファンにとってはハラハラものなわけですが…!)。周りの目を気にして、優等生な“グッド・ガール”であり続けようとしていたという彼女の独白から、このドキュメンタリーははじまります。この作品は優等生であろうとした女の子が世間に叩かれ、自信を喪失し、やがてありのままの自分の価値を見出すまでの特別だけれど普遍的な戦いの記録といえるかもしれません。音楽と出合った幼い頃の映像やステージでのパフォーマンス、メロディと歌詞があふれ出てくる楽曲作りの過程は、選ばれしスターの光の部分。それだけにとどまらずこの作品では、摂食障害やゴシップ、カニエ・ウエストとの確執に悩まされた過去、元ラジオDJを相手にしたセクハラ裁判の行方など、影の部分まで赤裸々なインタビューとともに語られています。なかでも彼女の切実な願いと勇気が痛いほど伝わってくるのは、周囲の反対にあいながらも政治的な発言をしようと覚悟する場面。カントリー歌手としてずっと中立であろうとしていたテイラーが、女性や同性愛者の権利を守る気のない故郷のテネシー州の現状を憂いて、涙ながらに民主党支持を訴えたいと語る場面です。母親のガンをきっかけに、自分の人生のプライオリティに気づいたと語るテイラー。ひとりの人として、アーティストとしての成長を見つめた作品であり、人を敬うために学び続け「ピンクの服を着て政治の話をしたい」とインフルエンサーとして立ち上がった、聡明でたくましい女性の生き方を切り取ったドキュメンタリーに仕上がっています。 『ミス・アメリカーナ』監督/ラナ・ウィルソン出演/テイラー・スウィフトほか2020年 アメリカ映画 1時間25分 Netflixにて独占配信中www.netflix.com/jp/title/81028336?source=35 Facebookでシェア Twitterでシェア Pen Membershipに登録 Back Number キアヌ・リーヴスも登場! こんな時こそネットフリックスオリジナル映画『いつかはマイ・ベイビー』で大笑い。 炸裂する三池ワールド! 歌舞伎町を舞台にラブ、バイオレンス、アクション、コメディのすべてが詰まった『初恋』に痺れる。 いま注目の国・ジョージアから届いた、男たちの青春映画『ダンサー そして私たちは踊った』 ダニエル・クレイグの“とぼけぶり”が見逃せない、アガサ・クリスティに捧げる王道の謎解き映画。 Go To Index過去記事一覧へ あの名曲「卒業」にも影響が!? 尾崎豊のクリエイションを支えた8冊の愛読書。 【閲覧注意】リアル『シャイニング』!? ホテルの廊下に、双子姉妹の「幽霊」が出現【動画あり】   var cX = window.cX = window.cX || {}; cX.callQueue = cX.callQueue || [];   cX.CCE = cX.CCE || {}; cX.CCE.callQueue = cX.CCE.callQueue || [];   cX.CCE.callQueue.push(['run',{     widgetId: 'b4564fcdbf99473a5ad359b213743e877af99e80',     targetElementId: 'cx_b4564fcdbf99473a5ad359b213743e877af99e80'   }]); Topics 映画のツボ テイラー・スウィフトの葛藤を描いた『ミス・アメリカーナ...

頬を寄せ合うロバート・ダウニー・Jr&ジェレミー・レナー!『アベンジャーズ』ファンイベントの様子:フォトギャラリー|シネマトゥデイ

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インフィニティ・ウォーを手掛けるルッソ兄弟はソニーのスパイダーマン映画を製作すると申し出た!

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ルッソ兄弟は、クリス・エヴァンスに

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To work! Richard Madden donned a firefighter shirt to film scenes with co-star Ashleigh Cummings as they got to work on set of Amazon's new spy show Citadel in Oxford on Monday

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【写真を見る】ルッソ兄弟の作品でアベンジャーズがふたたび集結!?

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ルッソ兄弟、「キャプテン・アメリカはいつでもムジョルニアを持ち上げることができた」

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ルッソ兄弟も参加したアメコミ原作ドラマ「DEADLY CLASS」配信

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クリス・ヘムズワース主演、ルッソ兄弟製作『タイラー・レイク -命の奪還-』2020年4月24日よりNetflix全世界配信決定

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トムホと一緒にレッドカーペットを歩ける ─ ルッソ兄弟、最新作『チェリー』のプレミア参加権を米チャリティに出品

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ルッソ兄弟プロデュースのNetflixホラーシリーズ「From」が本格始動!─これまでに分かっていること■あらすじ■キャスト■「From」の制作状況は?■配信日はいつ?

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『アベンジャーズ』ルッソ兄弟、新作『Cherry』でのトム・ホランドの演技を「オスカー級」と絶賛!

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長内那由多のMovie Note

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クリヘム主演! 『アベンジャーズ』スタント・コーディネーター&ルッソ兄弟が作るNetflix映画 『タイラー・レイク -命の奪還-』

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デビッド・ハーバー

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ライト兄弟(左:ウィルバー、右:オーヴィル)

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