Images of 江凱型フリゲート
The Chinese People's Liberation Army-Navy Jiangkai-class frigate Linyi (FFG 547) arrives at Joint Base Pearl Harbor-Hickam. Visit San Diego, People's Liberation Army, Navy Air Force, Cruise Missile, Visit Hawaii, Army & Navy, Navy Ships, Pearl Harbor, Battleship
尖閣に近づく中国艦船への抗議は国益損ねる>
1月11日、中国海軍の「江凱(ジャンカイ)2型」フリゲート「益陽」(イーヤン、3963トン)と「商(シャン) 型」原子力潜水艦(6096t)が東シナ海の宮古島東方と尖閣諸島の大正島北東の日本の接続水域を通過したのを海上自衛隊の護衛艦「おおなみ」(6401トン)と同「おおよど」(2591トン)、P3C哨戒機が追尾、確認し、外務省の杉山晋輔事務次官は中国の程永華駐日大使を同省に呼び抗議した。 だがこの抗議には法的根拠はない。接続水域は領海12海里(約22キロ)の外側であり、そこではどの国の艦船も自由に通航でき、潜水艦が浮上せずに航行することも認められている。 「接続水域」は禁酒法時代(1920~33年)のアメリカが設けたものだ。当時は領海の幅は3海里(5.5キロ)が一般的で、アメリカもそれを認めていた。だがそれでは隣のカナダやメキシコ等から来る酒の密輸船が米国のすぐ沖に停泊し、小舟などで陸揚げする機会をうかがっていても沿岸警備部隊は取り締まれないから、米国は陸岸から12海里までを接続水域とし、密輸の取締りをすることを近隣諸国との2国間条約で認めて貰ったのだ。 第2次世界大戦で海の覇権を握った米国はそれまでの国際法、慣例を無視して領海幅を12海里とし、その外側に12海里の接続水域を一方的に設定、またメキシコ湾の油田を開発するため、米国から海底に伸びている水深200mまでの「大陸棚」を自国の主権下に入れ、日本等の漁船が米国沖で操業しないよう「漁業専管水域」を宣言するなど、やりたい放題の海洋権益の取り込みを行った。 日本やイギリス等、海運、漁業に秀でた海洋国は、それまで自分たちが自由に使っていた公海が沿岸国の支配下に置かれては困るから、古来の領海3海里の原則に固執した。だが海洋国よりはるかに数が多い沿岸国は外国の近代的漁船団が自国近海で操業するのを防ぎたいし、海底資源の開発権も欲しいから、圧倒的な海軍力を持つ米国が示す例に習って、海上、海底の支配権を拡大することになった。 この状態を整理するため1982年に国連で採択された海洋法条約は、それまで米国や一部の沿岸国が一方的に行っていた海洋の分割支配をほぼ追認し、大陸棚の定義(幅の拡大)などで米国の要求を呑む形となった。 これにも米国の石油業界は満足せず、米国政府は海洋法条約に署名しなかった。「米国議会が批准しなかった」との記述も散見するが、これは正確ではない。米国は他国の海上での活動を「国際法違反」と非難することが多いが、米国は今日の海上の国際法の根幹である国連海洋法条約を認めていないのだから「どういう神経か」と呆れざるをえない。 この条約の33条は「接続水域」内では沿岸国は「自国の領土又は領海内における通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令違反を防止すること」のために必要な規制を行える、と定めている。中国軍艦が日本の接続水域を通っても、関税や密入国、検疫の問題に関しない限り、日本の規制は及ばず、公海と同一の扱いとなる。日本政府が今回中国軍艦の接続水域通航に対して抗議したのは、 あたかも隣人が自分の家の前の公道を通ったことに怒って怒鳴り込 むクレイマーのような形で体裁の良い行動では無い。 海洋法条約によれば、領海内ですら、すべての国の船舶は「 無害通航権」を有しており、領海内では武力行使、威嚇、 兵器を用いる訓練、情報収集、漁業、航空機の発着、 通信妨害などが禁じられ、潜水艦は海面上を航行し、 旗を掲げることになっている。外国軍艦が日本領海に入っても禁止された行為をせず、 通過するだけなら「領海侵犯」ではなく、文句は言えないのだ。 2015年9月4日には、中国軍艦5隻がアラスカ西方、 アリューシャン列島沖の米国領海内を通過したが、米国は「 国際法上合法だ」と発表し、苦情は述べなかった。米国は「 航海の自由」を唱え、 南シナ海では今年1月17日にもイージス駆逐艦「ホッパー」( 8,364トン)が、 中国が領海を主張しているスカーボロ礁の12海里以内を通航した 。 中国はこれに抗議したが、 米海軍は海南島を基地とする中国潜水艦の動静を探り、 また対潜水艦戦のため、 海水温度の変化など水中の音波伝播状況の資料収集を行っているか ら、これは領海内で禁止される「情報収集」 にあたるかもしれない。 日本も、 もし中国艦船が日本領海内で情報収集や威嚇的行動など、禁止された 行為をすれば抗議してしかるべきだろう。だが、接続水域を通っただけで抗議するのは根拠がないし、 米国と同様に「航海の自由」を唱えつつ、 外国艦船が海洋法条約で認められた行動をするのを非難するのは矛盾 している。 日本は国民の生存に不可欠な食料2500万トンをはじめ、原油、 石炭、液化ガス、工業原材料など計約7億8,000万トンを輸入、 約1億7000万トンを船で輸出しており、 航海の自由はまさに死活的な国益だ。 無人島の領有権問題とは比較にもならない。 尖閣問題については2014年11月10日、北京での安倍・ 習近平会談に際し発表された合意文書で「 双方が異なる見解を有していると認識し、 対話と協議を通じて情勢の悪化を防ぐとともに危機管理メカニズム を構築し不測の事態の発生を回避することで意見の一致を見た」 とされた。 これは日本が尖閣諸島を実効支配している現状を中国が黙認する事 実上の「棚上げ」を意味する。合意文書には「棚上げ」 とは書かれていないが、玉虫色であることこそが「棚上げ」 たる所以だろう。 外務省は今回の抗議について「 中国軍艦の接続水域の通航は国際法上の問題はないが、 中国が尖閣諸島の領有権を主張しており、緊張を高める行為だ」 と説明している。だが、 そもそもどちらの国が島の領有権を持っていても、 その周辺の接続水域の通航は自由だから、 これが領有権論議に関係するとは考えられない。 竹島問題では韓国がその実効支配をしているが、日本はたまに「 日本領だ」と言う事はあっても、実情は黙認している状態だ。 ところが韓国ではこれが反日運動のスローガンとなって「 独島防衛」が叫ばれ、19,000トンのヘリコプター空母も「 独島」と命名している。韓国にとっては竹島問題を騒ぎ立てず、 そっと実効支配を続けつつ、 日本と友好関係を拡大する方が国益にかなうはずだが、 民族感情は理性的な対外政策を妨げる。 日本にとっての尖閣問題は、韓国の「独島防衛」の裏返しで、 騒がず現状維持を図るほうが得策だろう。「 人の振り見て我が振り直せ」とはこのことだ。 安倍首相は2006年10月、 首相就任の直後に訪中して胡錦濤主席と会談「戦略的互恵関係」 を構築することで合意したことを今も誇りとし、 昨年5月ごろからは習近平主席が主導する「一帯一路」 への積極的協力の方針を定めている。 2014年11月に合意した「海空連絡メカニズム」( ホットラインなど)の構築への交渉も昨年再開され、 12月6日にほぼ合意に達している。 その一方で中国軍艦2隻が接続水域を通航したことが合法的である ことを承知の上で抗議したのは首尾一貫しない行動だ。政府、 自民党の中には安倍首相の「一帯一路」への協力など、 中国との接近を図る姿勢に反感を抱いて、 それを妨害しようとするものがいるのではないか、 と考えざるを得ない。■田岡 俊次(軍事評論家、元朝日新聞編集委員)1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、筑波大学客員教授などを歴任。82年新聞協会賞受賞。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。
出典:Yahoo!ニュース
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180129-00010001-socra-pol