Images of 対称減少再配分
医療機器企業におけるリスクマネジメントについて研究するページ1. R-Map手法とは ISO/IEC Guide 51の定義では、リスクとは「危害の発生の確率とそれが発生したときの重大性の組合せ」で ある。 実際に確率を正確に見積もるのは容易なことではない。白鳥は白いものという思い込みがあったのに、オ ーストラリアで黒い白鳥が発見されたことにちなみ、確率で予測できないことを「ブラックスワン」と呼 ぶ。 未曽有の巨大地震とその後の原発事故もブラックスワンの一種といえる。確率は極めて小さいが、ゼロで はない破滅的リスクも人間の嫌う曖昧さに通じているかもしれない。 このような時、リスクの発生前後を比較すると、人間は往々にして完全な無視から過剰な反応へと正反対 に振れる。米国の法学者、キャス・サンスティーンは、どちらの極端な態度にも陥らず、費用対効果を考慮 しながら、予防的なリスク削減措置を講じるべきだと主張している。 製品や設備、環境などの状況から、起こりうる危害の程度と発生頻度を推定し、危険の大きさを評価する リスクアセスメントの手法の1つにR-Map手法というものがある。R-Map手法には、リスクを定量評価し、 社会的に許容されるか否かを視覚的に判断しやすいという特徴がある。 2008年に経済産業省は「電気用品安全法」や「消費生活用製品安全法」などのいわゆる製品安全4法を改 正し、開発設計段階でのリスクアセスメントの実施を義務付ける方針を表明した。同省は、R-Mapの導入を 想定している。 2. R-Map手法によるリスク評価 R‐Map法では、リスク評価をA3、A2、A1、B3、B2、B1、Cというように割り振る。(図2) リスクの大きさを、受け入れられないリスク「A」、原則は許容されないがコストや効用によって認める 「B」、許容可能な「C」の3つに大別し、AやBのリスクが、Cになるまで対策と評価を繰り返すのである。 3. 航空機はなぜ飛行が許されるのか 航空機の墜落事故においては、その重大性は甚大である。ひとたび事故が発生すれば、その被害は計り知れないものとなるだろう。それでは、なぜ航空機は飛行が許され、また乗客も安心して利用しているのであろうか。 米国の国家運輸安全委員会(NTSB)の行った調査によると、航空機に乗って死亡事故に遭遇する確率は 0.0009%であるという。米国国内の航空会社だけを対象とした調査ではさらに低く0.000034%となる。 これは8,200年間、毎日無作為に選んだ航空機に乗って一度事故に遭うか遭わないかという確率である。 これが「航空機は最も安全な交通手段」という説の根拠となっている。 ちなみに米国国内において自動車に乗って死亡事故に遭遇する確率は0.03%なので、その33分の1以下の 確率ということになる。 つまり、航空機事故の発生確率が極めて低いのである。R‐Map法では一番右の下『C』に相当する。発生 した場合は致命的であるが、発生がほぼ考えられない。発生頻度と重大性を掛け合わせた数値は非常に低い ということである。これによって、航空機は飛行することが可能なのである。 ちなみに、2001年9月の米国同時多発テロ事件の後、米国人の多くが民間航空機による移動を避けて自家 用車による移動を選択したために、同年の10月から12月までの米国における自動車事故による死者の数は 前年比で約1,000人増加したという。なんとも皮肉な結果となってしまった。 4. 危害の程度 危害の程度では、一般的に定性的な表現と定量的表現が用いられる。(図3) 当然のことながら、規制当局の期待は定量的な表現だ。ただし、製薬業界、医療機器業界では、どうして も定量的に評価することは困難である場合が多い。 定性的評価の表現とは、『致命的(Catastrophic)』『重大(Critical)』『中程度(Marginal)』『軽微 (Negligible)』『無傷(None)』などである。多くの場合、定性的な表現で評価をしがちになる。 一方、定量的な表現は、人に対する危害が『死亡』『重傷・入院治療を要する』『通院加療が必要』『軽傷』 『なし』などである。このように具体的な危害を推定することが望ましい。例えば、医薬品に不純物が混じ ってしまった場合、具体的に患者にどのような危害が生じるかを評価する。 5. 発生頻度 発生頻度は、一番確率の高いものをレベルで5とする。発生頻度においても危害の程度と同様に、定性的 な表現と定量的表現が用いられる。(図4) 6. 発生頻度の確率的表現 発生頻度の確率的表現では、10万台の製品が1年間稼働している中で、週に2回から1ヶ月に1回起きる 確率というのが『発生頻度5』のレベルである。月に1度から1年に1度というのが『発生頻度4』。10年に 1度というのが『発生頻度3』というように具体的な発生頻度を確率的に表現することもできる。(図5参照)