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第13回渋谷和宏の嫌でもわかる経済ニュース誰よりもあなたをよく知るAI が買い物を指南、就職も左右する時代にグーグル傘下のディープマインドが開発したAI(人工知能)「アルファ碁」が世界最強とされるプロ棋士、中国の柯潔九段との三番勝負に全勝するなど、近年、加速度がつき始めたAI の進歩は私たちの生活や仕事にも大きな影響を与え始めている。誰よりもあなたをよく知るAIが日々の買い物を指南し、会社選びを左右する、そんな時代の扉が開きかけているのだ。AIが私たちの表情を読み取りお薦め商品を日本マイクロソフトは博報堂などと共同で、AIが私たち一人ひとりの顔や表情を読み取り、それぞれにお薦めの商品の広告を表示するシステムを開発、今年3月に試作機を発表した。どんなものかと言うと、まずトイレなどによくある程度の大きさの鏡に画像認識用のカメラが付いており、鏡を覗き込んだ人の顔のデータを収集する。 収集したデータはネットワークでマイクロソフトに送られ、AIが年齢や性別、顔の特徴や表情から、その人のライフスタイルや気分、健康状態を読み取り、その人に最もふさわしい商品やサービスを選択、それらの広告が鏡の中に表示されるのだ。それも単にメガネをかけている人にはメガネの広告を、無精ひげが伸びている人には電動シェーバーやシェービングクリームの広告を表示するだけではない。AIが「この人は疲れた顔をしているな」と分析したら栄養ドリンクの広告を画面に表示したり、「悲しそうな顔をしているな」と判断したら思いきり楽しめるテーマパークや逆に泣ける映画の動画広告を流したりする。AIが私たちの健康状態や内面にまで踏み込んで商品やサービスを推薦してくれるのだ。さらに広告の表示にも工夫が凝らされている。メガネのような顔に装着する物の場合、鏡に映る本人の顔をそのままにして、その人の目のまわりに推薦するメガネの画像が表示される。また、一度鏡を覗き込んだ人のデータは保存されるので、二度目に覗き込んだ時には別の商品、サービスを薦めるというように過去の履歴を踏まえた広告表示もできる。マイクロソフトなどによると、すでにショッピングセンターなどの商業施設や大手日用品メーカーなどから問い合わせがあるという。近い将来、ショッピングセンターや百貨店でトイレに入り、手を洗う時に何気なく鏡を覗き込んだ瞬間、「疲れているあなたにはこれ!」と栄養ドリンクの広告が流れ出すようになるだろう。また今後、さらに大きな鏡も作成する予定とのことで、衣料品の売り場で姿見を見たとたんに「少し元気がありませんね。最上階のシネコンで思いきり笑えるコメディ映画が公開中ですよ」といった広告が流れ出す日も遠くないかもしれない。このAIによるお薦め商品の広告は、消費者がこれまでにどんな商品を買ったのか、どんなサイトにアクセスしたかなどの履歴をもとに、その消費者に的(ターゲット)を絞って配信するターゲティング広告の進化系と言えるだろう。購買履歴だけではなく表情や顔に表れる健康状態までもが分析の対象になり、加えて、ターゲティング広告はこれまでは主にネット通販の広告手段としてネットを中心に活用されてきたが、このシステムの登場によってリアルな店舗でも打ち出されようとしているからだ。AIをリアル店舗で活用する試みはこれだけではない。ワコールホールディングス傘下でマネキンの製造・販売を手がける七彩はAIを搭載し、来店客の年齢や性別を分析するだけでなく来店客との会話もできるマネキンの開発を進めている。マネキンの首元に画像認識用のカメラを付け、「20代の女性客は15秒間、マネキンが着たワンピースを眺めており、購入を薦めてみたが結局買わなかった」といった情報を収集、売り逃した客のデータも交えて分析し、商品開発や店づくりに反映させる予定だという。AIが性格や適性を分析、ウソも見抜く!企業の人材採用にもAIが活用され始めている。全日本空輸(ANA)は2018年春から、AIが性格診断を行うアプリ、GROW(グロウ)を事務職の採用試験で利用するという。採用試験での性格診断にはこれまでもリクルートが開発した適性検査のSPIなどがあり、読者の皆さんにも検査を受けた経験がある人はいらっしゃるだろう。従来のSPIとGROWとの最大の違いは、AIの登場によって受診者自らが性格診断の結果をコントロールできなくなる点だ。SPIでは検査を受ける側が巧妙に回答の辻褄を合わせれば、例えば「適度に外交的」といった採用側が評価しそうな回答を作り出せる。すなわち“盛る”ことが可能だ。実際、ネットを検索すると「SPIの対策方法」と題して、「面接での受け答えと矛盾しないように面接の受け答えだと思って回答する」「『忍耐力には自信がある? ない?』といった企業がどちらを評価するかすぐに分かる質問は、評価する回答を選ぶ」といった“盛り方”を指南するサイトがいくつも見つかる。一方でGROWはスマホを操作する指の動きや回答までの時間も含めてAIが性格を診断するという。また友人や知り合いを招いて質問に回答してもらうので第三者の客観的な判断も加味される。「適度に外交的」「忍耐力には自信がある」と答えても、AIが「実は 内向的」で「忍耐力には乏しい」といった潜在的な気質を見抜いてしまうのだ。ウソ発見機能と言うと語弊はあるかもしれないが、人が人を評価し採用の可否を判断する時には避けられない主観や演技によるバイアスが、AIの導入で限りなく補正されると言えるだろう。AIを人材採用に活用する企業はもちろんANAだけではない。インターネット広告大手セプテーニ・ホールディングスは、2018年春採用から、AIが分析した「この人材はどこまで成長するか」の予測結果を採用するかどうかの判断に加えるという。セプテーニ・ホールディングスでは在籍している社員らを対象に、適性や性格と成長性の相関をAIが分析してきた。そのデータを使い、エントリーシートやアンケートへの回答、面接での受け答えからAI が一人ひとりの成 長予測モデルを作成するのだ。AIは個別のニーズに対応し普及私たちの生活や仕事にも大きな影響を与えるようなAIの活用は今後、さらに幅広い分野に浸透していくだろう。 AIの導入によるリアル店舗でのターゲティング広告が、ネット通販の攻勢に何とか一矢報いたいリアル店舗の切実なニーズをとらえたものであるように、あるいは採用面でのAIの活用が適性や能力を正確に見抜きたい企業 側の思いに答えたものであるように、AIにはそれぞれの企業に固有の、多様なニーズに対応できる潜在的な力があるからだ。それほど遠くない将来、例えばメディア企業が読者や視聴者が何を望んでいるのかAIを使って分析したり、ディベロッパーが都市再開発に乗り出す際にAIを使って住宅や店舗をレイアウトしたりするような動きがあちこち で生まれるに違いない。 こうした動きはエンジニアの仕事にも大きな影響を与えるだろう。AIが分かる技術者の引きはこれまで以上に強くなるだろうし、そうした技術者に対しては、単に技術力のみならず、AIを導入したい企業の課題・問題を正 確に把握し、より安価で効率の良いシステムを提供するためのコミュニケーション能力も問われるようになるだろう。 もちろんAIが人間の内面や健康状態にまで踏み込んで「あなたにはこれが必要です」と商品やサービスを推薦してくれたり、持って生まれた潜在的な気質を把握して「あなたにはこの仕事は向いていない」と判断を下した りすることにはある種の危うさが存在することも否定できない。AIの推薦するままに商品やサービスを購入していたらお金がいくらあっても足りないし、最悪の場合、買い物についての主体的な判断力が鈍ってしまいかねない。また人材採用をすべてAIに委ねたら、将来化けるかもしれない人材を取りこぼしてしまうかもしれない。人間は変わり得る存在であり、「こんな私を採用してくれた」という思いが忍耐力に乏しい人間を我慢強い人間に変えてくれるかもしれないからだ。そもそも企業にとって必要な人材は経営環境や技術動向、競合他社との関係によって日々、変わっていく。AIが今、必要だと判断した人材が将来にわたって企業の成長を牽引してくれる保証はない。だとすれば業務や意思決定に関してどこまでをAIに委ね、どこから社員が担当するかについて助言する役割も、エンジニアには求められるかもしれない。人とAIを比べた時、人はどんな点でAIに勝り劣るのか。エンジニアはAIのみならず人が持つ能力、潜在力を洞察する力も問われるようになるだろう。 前の記事 次の記事
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