Images of 湖の島・島の湖の一覧
湖水地方(Lake District)観光(1)
アイルランドに始まった今度の旅も、今日で通算8日目。いよいよ最後の目的地・湖水地方へ向かう。朝4時ごろに目覚めたものの、やはり天候が気になる。窓際に駆け寄って曙光の空を見上げると、雨は降っていないようだ。安堵しながら再び眠りに就く。
今朝も雨!
うとうとして5時前に目覚め、床を抜け出して再び窓辺へ。おや? 路面が濡れている。またまた雨のお見舞いだ〜! 今日は移動の日というのに、いやな天候になったものだ。今度の旅は雨にたたられ通しだ!と独りでボヤキながら洗面を済ませる。今朝は6時35分発の一番列車で湖水地方の玄関町ウィンダミア(Windermere)へ向かう。
宿の朝食は8時からなので、出発には間に合わない。そこで一昨日、ダブリン空港で買ったマーフィンケーキの出動である。幸いなことにバナナも1本残っている。これにコーヒーを沸かして飲めば朝食には十分だ。大きなマーフィンなので、1個もあれば十分。残り2個もあるが、捨てるのはもったいないし、ウィンダミアまで持参するしかない。やれやれ・・・。
早朝の駅へ
早朝の出発ということで、昨夜のうちに宿の支払いは済ませていたため、部屋のキーを返すのみである。6時前に出ようとバッグを持って廊下に出ると、早朝のことでどこにもスタッフの姿が見えない。そこでやむなく、キーを部屋のドアに差し込んだまま出発することに。外に出ると通行人の姿も見えず、静かなものである。しょぼ降る雨の中、バッグを肩に負い、片手で傘を差しながらウェーバリー駅に向かう。
歩いて10分足らずでウェーバリー駅の上に出る。昨日も行った駅なのに、そこへの入口に戸惑いながら、やっと駅のコンコースに到着。ここまで来れば、もう雨濡れの心配はない。まずはウィンダミア行きのプラットホーム探しである。通りがかった駅員に尋ねると、前の道路を横切って進み、その先にある20番ホームだという。昨日写真に撮ったあのホームではないのだ。
これは予定が違ったと、慌てて20番ホームを探しながら進む。これが分かりにくいところで、先へ行ったところからリフトに乗り、これで2階まで上って線路をまたぐ陸橋に出る。そこから案内表示に従って進み、今度は20番ホームへ下りる。なんとも複雑な移動コースで、しかも離れた場所にあることだ。これでは時間ぎりぎりに来ると、とても間に合わない。余裕をもって来て正解である。
20番ホームには、すでに列車は入っている。指定車両の前に行くと、ドアは締め切られて乗車できない。発車予定時間の10分前になっても全車両のドアは開かない。隣の男性に「まだ開かないんですかね?」と尋ねると、自分も分からないという。仕方なく待っていると、5分前になってやっとドアが開けられる。指定席を探して着席する。乗客は少なく、車内はがらんとしている。
列車内の様子
予定より5分遅れで発車した列車は、ゆっくりと低地帯の線路を走行する。右手には例のガーデンが見え隠れする。スピードが上がっても時速100kmもない速度だが、乗り心地は上々で車内にはカラフルなシートが並び、間接照明の柔らかな雰囲気がただよっている。驚くのはトイレ室の広さである。日本の列車の優に2倍はあるスペースで、もったいないほどである。やがて列車が郊外に出ると、羊や牛たちが放牧されたのどかな田園風景が広がってくる。空はどんよりとしているが、雨はあがっている。
窓側の壁面下には、写真のようにラップトップやモバイル用の電源が設けてあり、車内でパソコンなどができるようになっている。この車両内でも、現在4〜5人のビジネスマンらしき人たちが、忙しそうにラップトップパソコンを操っている。
オクスンホルム駅で乗り換え
ウィンダミア(Windermere)までは直行列車はなく、オクスンホルム駅(Oxenholme)でローカル線に乗り換え、ウィンダミア駅へ向かう。オクスンホルム駅までは2〜3ヶ所の停車駅があるのだが、停車するごとに次第に乗客も増えてくる。こうして約2時間でオクスンホルム駅に到着。そこで約40分の待ち合わせがあり、ローカル線に乗り継いで約20分後の9時32分にウィンダミア駅に到着する。出発時刻の6時35分から、都合3時間の所要時間であるが、乗り継ぎの待合時間を除けば正味2時間20分である。
乗り換え駅のオクスンホルムに着いたころには、空はすっかり晴れ上がり、見事な青空が広がっている。湖水地方へようこそいらっしゃいと言わんばかりの歓迎ぶりである。オクスンホルムはのどかな地方駅の感じで、辺りはひっそりとしている。駅玄関前に出てみるが商店の1軒もなく、人影も見えない。この駅は湖水地方に行くための乗換駅に過ぎないのだろう。
ウィンダミアへ
気持ちの良い快晴の空を見上げながらのんびり待っていると、ようやくウィンダミア行きの列車が入ってくる。この列車も乗客は少なく、車内はガラガラである。支線とはいえ、窓外に流れる風景は、さすがに湖水地方を思わせる美しい緑の草原風景の連続で、超一級のシーンを見せてくれる。どんなに美しい風景が待っているのか、いよいよ期待に胸がふくらむ。
窓外いっぱいに広がる緑したたる田園風景をうっとりしながら見とれているうちに、列車はあっという間に湖水地方の玄関口ウィンダミア駅に到着である。この駅は一段とのどかで、短いホームがあるだけ。駅らしいコンコースも駅舎も何もない素朴な駅である。ホームから通路を抜け出たらそこが道路で、あれ〜?という感じである。
湖水地方のこと
湖水地方はイングランド北部、カンブリア州にある観光名所で、英国の誇る美しいリゾート地である。その名のとおり大小さまざまな湖が点在し、澄んだ静かな湖面には青い山々が映り、緑したたる広大な牧草地には羊が遊ぶ。この地はその昔から旅人たちを魅了し、芸術家や文人たちの感性を育んできた。その中でも、いまや世界中で愛されるピーター・ラビットを生みだしたベアトリクス・ポター、「水仙」などの詩で自然の偉大さを謳った桂冠詩人ワーズワースは有名である。
その中心となるのがウィンダミア湖とその湖畔に点在する村々で、多くの芸術家、文化人に愛された美しい景観は、自然文化財として英国民に愛され、手厚く守られている。この地は1951年国立公園に指定されているが、そこにはなだらかな山々、イングランド最大のウィンダミア湖をはじめとする大小17の湖、そして古くからの田園風景など100年以上前の風景がそのまま残っている。
この地の自然がここまで維持保存されたのは、18世紀にここに住んでいた1人の牧師の運動があったからである。彼は産業革命で美しい自然が損なわれていくのを憂慮し、貴重な自然が残る地域を少しずつ買い取っては、そこを開発から守ったのである。ピーター・ラビットの作者であるべアトリクス・ポター(Beatrix Potter)もこの運動に参加している。
彼とその賛同者が始めたこの政府に頼らない自然保護運動こそが、現在のナショナルトラスト運動の始まりであり、やがてこの運動は世界中に広まることになる。つまり、この湖水地方がナショナルトラスト運動の発祥の地なのである。わが国では、1974年に始まった「天神崎」(和歌山県・田辺市)がナショナルトラスト運動の先駆けとして、つとに有名である。
宿探し
駅に隣接してレンタサイクルの店がある。「よし、これだ!」と心の中で叫びながら、それを横目に見て通り過ぎる。サイクリングの予定をしているのだが、まずは宿探しである。雨の多い不安定なこの地域の天候のこと、この快晴の日の今日こそ、サイクリングをせずしていつするのだ!と心に言い聞かせながら駅前から緩やかなスロープの道を下りおりる。宿の地図を見ると、駅のすぐ近くらしい。だが、分岐点が多く、どちらの方向か分かりづらい。とうとう付近をぐるりと一周した挙句、やっと目指すB&Bを見出す。
ドアをノックすると愛想の良い夫人が現れ、私の名前を呼びながら迎え入れてくれる。その気配りの良さには驚きで、一気に疲れが吹き飛んでしまう。また、ここの主人が好感の持てる方で、夫妻そろっての歓迎振りが旅人の疲れを癒してくれる。部屋の準備がまだできていないとのことなので、荷物を預け、明日のツアーやサイクリングの手配に出動する。その前に観光パンフやサイクリングのコースなどを教えてもらい、事前の知識を得る。
ツアーの予約
この宿は駅から5分足らずと便利な立地にあり、3年前に建て替えられてまだ新築同様である。ここから駅の方へ歩くと、駅の手前にインフォメーションがある。そのすぐ近くに現地旅行社の事務所がある。まずはここに立ち寄って明日の観光について尋ねる。一番人気の定番コース「ピーター・ラビットの世界とワーズワースを巡る1日ツアー」を申し込もうとすると、なんと今週の土曜日までその空席はないという(今日は月曜日)。後で耳にした話だが、こんなに席が取れないのは大混雑というよりはガイドや車の配車の都合もあるらしい。いずれにしても15人乗りのミニコーチなので人数が限られるわけだ。予約するなら早目に越したことはない。
これがダメなら、他に参加できるツーアはあるのかと尋ねると、「10湖を巡る1日ツアー」なら空席があるという。そこで、とにかく明日はこのツアーに参加しようと申し込むことにする(料金£28.45(6700円)。これでひとまず安心し、さあ次はサイクリングの準備だ。駅の隣に大きなスーパーマーケットがあることを知り、まずはそこに出かけて食料と水の調達をする。サンドイッチ、牛乳パック、ミネラル水2本(2本組でしか売らない)を購入し、デイバッグに詰め込んで準備OKである。でも待てよ・・・この水2本は重過ぎる。これは宿に残して行こう。それでもこれにカメラ2個(普通カメラとデジカメ)を加えるとバッグはかなりの重さとなる。
サイクリングでヒル・トップへ
こうして行ったり来たりしながら、やっと出発態勢が整う。すでに時間は11時半になっている。そこで、レンタサイクルの店に急いで出向き、1日£18(4230円:夕方5時まで)で借りることに。サイクリング用の地図を自転車に付けてもらい、7段ギアの調整を済ませると出発OKである。スタッフに尋ねると、ヒル・トップまで行ってからウィンダミア湖を半周するのは無理だという。せいぜいヒル・トップとその先のもう一つの村までぐらいだろうとアドバイスしてくれる。
自転車はマウンテンバイクで車輪には泥除けカバーも何もないタイヤ丸出しである。私がハンドルにバッグを掛けようとすると、それはタイヤに触れて危険だから止めなさいと制止される。そこで肩にタスキ掛けにして出発する。バッグはサンド、牛乳、水、カメラ2個を詰め込んでいるので、かなりの重さになっている。タスキ掛けでもリュックと違うので固定せず、不安定である。とにかくこれで自転車にまたがり、おもむろにペダルをこぎ出す。
ヒル・トップまでのコース
まずは有名なヒル・トップ(ニアソーリーの村の農場のことで、小高い丘の麓にある。その農地をピーター・ラビットの作者であるべアトリクス・ポター(Beatrix Potter)さんが購入したのである。彼女の死後、そこにある建物を含めてナショナル・トラストに寄付され、現在はその管理下に置かれている。)を目指すのだが、そこまでのコースは、ここウィンダミアの町からボウネスの町へ移動し、そこからイギリス最大のウィンダミア湖をフェリーで渡って対岸に上陸し、そこからヒル・トップへ向かうのである。そこへの道はスロープがあるのだろうが、7段ギアがついているので何とかなるだろう。
こうして乗り慣れないマウンテンバイクに乗って、姿だけは颯爽?とスタートする。宿の夫人が「車が多いから気をつけてくださいよ。」という注意の言葉を耳に残しながら、ウィンダミアのメインストリートを下り始める。かなりのスロープなのでブレーキをかけながら走り下る。この坂道だと帰路が大変だろうなあとの思いも何のその、ボウネスへ向かって快走する。
ボウネスの町のメインストリートに近づくと一段と急坂になり、道の両側に立ち並ぶさまざまな商店を横目で見ながら下りおりる。ここを抜けると、右側にウィンダミア湖がぱっと広がってクローズアップされてくる。これが有名な湖水地方、いやイギリス最大のウィンダミア湖なのだ! そこの岸辺に遊覧船が発着する桟橋と乗船チケット売り場がある。ウィンダミアの町からボウネスのこの場所まで約10分ほどの距離である(歩けば30分はかかる)。ここでストップし、その美しい風景を写真に収める。
岸辺には白鳥が戯れ、桟橋には出発間際の遊覧船が泊まっている。快晴の空の下、強い陽射しが湖面を照らし、のどかな湖畔の風景を演出している。写真で見ればきれいな風景のようだが、この桟橋一帯は観光客に荒らされた感じで湖の神秘さは失われ、湖水も濁っていて、やや期待はずれである。
自転車転倒
チケット売り場でフェリー乗り場を尋ねると、ここから一走りした先の方だと教えてくれる。教えられた道をたどりながら走行し、方向が分からなくなると通行人に尋ねたりしながらペダルを踏む。路上は車が多く危険なので、歩道を走り進む。途中でひと休みしようとストップし、足をついて降りようとすると、背負っているバッグの重さにバランスを崩して自転車ごと転倒。身体は辛うじてダウンを免れたが、自転車を転覆させてしまう。その拍子に車輪のチェーンが外れ、動きが取れなくなってしまう。
こんな所でチェーンのトラブルとは困ったことになったものだ。自転車を引いて引き返すには遠すぎるし、しばし途方に暮れる。なんとか修復しなければと、路傍に落ちている枝木を拾い、それでチェーンを歯車に戻そうと試みる。だが、7段ギアで歯車が複雑な上、チェーンが固くて伸びず届かない。
悪戦苦闘しながら、いろいろ試みていると、後輪の歯車部分がバネ式で前後に自由に動かせるようになっている。そこでこれを緩めながらチェーンを引っ張ると、楽に前輪ギアに届くことが判明。これで難なくチェーンを歯車に戻すことができ、ほっと胸を撫で下ろす。休息のつもりが、それどころかとんだやっかいな作業になったものだ。とにかく先を急ごう。
フェリーに乗る
ここからしばらく走るとフェリー乗り場が見えてくる。フェリー乗り場といっても、写真に見るように何もなく、ただ湖面に向かって滑り下りる斜面が設けてあるだけである。ここから対岸との間にフェリーが就航し、ピストン輸送している。小型のフェリーで車両20台前後と人を乗せて往復する。ウィンダミア湖は極端に長細いだけに、陸路で対岸へ渡るとなるとかなりの距離を迂回しなければならない。だから、このフェリーの利用価値は大きいわけだ。
ボートは出発した後なので、戻ってくるまで付近をぶらぶらしながら待つことに。掲示板には人や自転車は運賃50ペンス(118円)と書いてあるだけで、チケット売り場の小屋も何もない。安い運賃だなあと思いながら待っていると、ようやく対岸からフェリーボートが戻ってくる。対岸の船着場がようやく見えるぐらいの距離である。
降船が終わるのを待って乗船すると、クルーのおじさんが運賃の集金にやってくる。ボートはエンジン音もなく静かに動き出し、ゆっくりした速度で対岸へ向かう。船上からの湖水の風景は素晴らしく、心も洗われて癒される思いである。ボートは10分前後で対岸の乗船場に到着。この付近はヨットやクルーザーの船だまりになっており、閑静で素敵な湖畔の風景を見せている。ここで上陸し、ヒル・トップへ向かう。地図には、ここからヒル・トップまで2マイル(3.2km)の距離となっている。
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